大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)10881号 判決

原告 更生会社株式会社a管財人 X1

原告 更生会社株式会社b管財人 X1

右管財人ら代理 瀬戸英雄

同 鈴木和憲

同 池内稚利

同 安部祐志

被告 富士駿河湾開発株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 田辺克彦

同 田辺邦子

同 田辺信彦

同 伊藤ゆみ子

同 中西和幸

同 市川佐知子

同 安田和弘

同 鈴木仁史

主文

一  被告は、原告更生会社株式会社a管財人X1に対し、金四六〇〇万円及びこれに対する平成一〇年三月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告更生会社株式会社b管財人X1に対し、金二三〇〇万円及びこれに対する平成一〇年三月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、いずれも更生会社となった株式会社a(以下「a社」という。)及び株式会社b(以下「b社」という。)の管財人である原告らが、被告に対し、a社においては被告との間で平成六年一一月二四日及び平成八年三月一九日にそれぞれ入会保証金二三〇〇万円を預託してレジャークラブの入会契約を二口締結し、b社においては被告との間で平成八年五月三一日に入会保証金二三〇〇万円を預託してレジャークラブの入会契約を締結したところ、右各契約は、いずれも双務契約であり、a社及びb社の被告に対する各義務と被告のa社及びb社に対する各義務が、いずれも未履行であるから、原告において会社更生法一〇三条一項に基づき、右各契約を解除したとして、a社が被告に対して預託した入会保証金の合計額である四六〇〇万円及びb社が被告に対して預託した入会保証金の金額である二三〇〇万円の返還及びこれらの金銭に対する右解除の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  a社及びb社は、いずれも、平成九年一二月一八日、静岡地方裁判所において、更生手続開始決定を受けたところ、原告らはその各管財人である。

被告は、会員制レジャークラブである富士駿河湾クラブ(以下「クラブ」という。)を運営する会社である。

2(一)  a社は、被告に対し、平成六年一一月二四日、入会保証金二三〇〇万円を預託して、被告との間でクラブの入会契約を締結した。

(二)  また、a社は、被告に対し、平成八年三月一九日、入会保証金二三〇〇万円を預託して、被告との間でクラブの入会契約を締結した。

3  b社は、被告に対し、平成八年五月三一日、入会保証金二三〇〇万円を預託して、被告との間でクラブの入会契約を締結した。

4  原告らは、それぞれ被告に対し、平成一〇年三月一三日、会社更生法(以下「法」という。)一〇三条一項に基づいて、右2の各入会契約及び右3の入会契約(以下、これらを併せて「本件入会契約」という。)を解除する旨の意思表示をした。

二  主要な争点

1  右一4の原告らによる本件入会契約の解除の有効性、すなわち、本件入会契約が、いずれも双務契約であって、更生手続開始当時、a社及びb社のそれぞれと被告の双方が、債務を履行していないといえるかどうか。

(一) 原告らの主張

本件入会契約は、いずれも双務契約であって、更生手続開始当時、a社及びb社のそれぞれと被告の双方が、債務を履行していない。

(1) 本件入会契約は、契約当事者であるa社及びb社のそれぞれと被告に対し、次のような権利義務を生じさせた。

ア a社及びb社は、それぞれ、被告に対し、年会費及び施設利用料を支払う義務を負う。

イ 被告は、a社及びb社に対し、それぞれ、その施設を利用させ、又は主催するイベントに参加させる義務を負う。

ウ a社及びb社は、それぞれ、被告に対し、本件入会契約の締結に際して支払った入会保証金を、二〇年間、無利息で、預託しておく義務を負う。

(2) a社及びb社の右(1)アの各年会費及び利用料の支払義務並びに右(1)ウの各預託金に対する預託金の利息相当額は、右(1)イの各施設利用権等と対価関係に立つものであり、本件入会契約は、双務契約である。

入会者は、入会後の施設の利用を目的として入会するものであって、入会の時に預託する入会保証金は、いわば入会の条件である。このように、契約当事者の目的は、入会によって、それ以後、継続的に施設を利用させ、又は利用することができる点に主眼があるのであるから、入会契約は継続的な契約であり、入会契約が存続する限り継続する年会費及び利用料の支払義務と施設利用権は対価関係に立つというべきである。

(3) また、a社及びb社の右(1)イの各施設利用権と右(1)アの各年会費及び利用料の支払義務は、a社及びb社がクラブの会員でいる限り、将来も発生するから、いずれも未履行である。

(4) したがって、原告らは、被告に対し、法一〇三条一項に基づき、本件入会契約を解除することができる。

(二) 被告の主張

本件入会契約は、双務契約ではなく、更生手続開始当時、a社及びb社のそれぞれと被告の双方が、債務を履行していないともいえない。

(1) 本件入会契約は、a社及びb社がそれぞれ被告に対して入会保証金を預託した場合に、被告がa社及びb社に対してそれぞれ会員資格を与えるという内容のものである。

したがって、a社及びb社の被告に対する各年会費及び利用料を支払う義務は、a社及びb社がそれぞれ会員資格を取得した結果又は会員資格に基づいてその権利を行使した結果として生じるものであって、入会契約の成立によって発生する義務ではない。

(2) また、仮に、被告が、a社及びb社に対して、それぞれ、その施設を利用させ、又は主催するイベントに参加させる義務を負うとしても、この義務も、a社及びb社がそれぞれ会員資格に基づいてその権利を行使した結果として生じるものであって、入会契約の成立によって生じるものではない。

したがって、本件入会契約について、a社及びb社の各年会費及び利用料の支払義務並びに各入会保証金を所定の期間無利息で預託しておく義務と、各施設利用権とが、対価関係に立つ双務契約であるということはできない。

仮に、a社及びb社の各年会費及び利用料の支払義務並びに各入会保証金を所定の期間無利息で預託しておく義務と、被告の各施設を利用させる義務との間に、何らかの関連性があるとしても、法律上の対価関係と評価するには足りない二次的なものと解すべきである。

(3) さらに、a社及びb社がそれぞれ入会保証金を預託し、被告が会員資格を付与した時点において、本件入会契約における契約当事者双方の債務の履行は完了しており、履行されていない債務はない。

(4) したがって、本件入会契約について、法一〇三条一項に基づく解除をすることはできないというべきである。

2  被告は、原告らの解除によって生じた損害賠償請求権をもって、本訴請求債権と相殺することができるか。また、右損害額はいくらか。

(一) 被告の主張

仮に、原告らが、法一〇三条一項に基づき、本件入会契約を解除することが許容されるとしても、被告は、本来、a社及びb社からそれぞれ預託された入会保証金を、二〇年間、無利息で、運用することができたのであるから、本件入会契約の解除の日である平成一〇年三月一三日から本件入会契約のそれぞれにおいて定められた各入会保証金の据置期間満了時までの商事法定利率年六分の割合による利息相当額の損害を被ることになる。また、右損害についての損害賠償請求権は、法一六二条一項によって更生債権となり、被告は、これを自働債権として、本訴請求債権と相殺することができる。

被告の右損害額は、右の期間、商事法定利率年六分の複利計算をすることによって算出することができる中間利息相当額と同額であり、具体的には、前記一2(一)の入会契約については一四三〇万六三七八円、前記一2(二)の入会契約については一四九四万九八〇八円、前記一3の入会契約については一五〇四万二八六七円である。

被告は、平成一〇年一二月二五日の本件口頭弁論期日において、本件入会契約のそれぞれについて、右損害賠償請求権と本訴請求債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

なお、原告らは、被告の相殺の意思表示が、法一六二条一項所定の期間内にされたものではないので、不適法であると主張する。しかし、同項は、更生債権者の相殺を広く許容すると、本来増加すべき更生会社の財産の増加を妨げ、又は更生債権者が不当に利益を得ることとなって、会社の更生を図ることが難しくなる上、相殺によって消滅すべき債権債務の範囲が一定の時期までに明確にならないと、更生計画の作成等の事後の手続に支障を来たすことになるなどの弊害を防止しようとしたものであるのに対し、本件においては、a社及びb社のそれぞれにとって増加すべき財産となる入会保証金の現在の金額は、中間利息の控除後の価額であるから、被告の中間利息相当額の損害賠償請求権について相殺を許容しても、右のような弊害は生じない。また、法一〇四条一項は、更生手続開始後の管財人による法一〇三条一項に基づく解除によって生じた損害賠償請求権を更生債権とし、更生会社と相手方との公平を図っているにもかかわらず、このような損害賠償請求権についても、法一六二条一項が適用され、相殺が許容されないと解した場合には、法一〇四条一項の趣旨が没却される。したがって、管財人が法一〇三条一項によって契約を解除した場合において、相手方が法一〇四条一項によって右解除による損害賠償請求権を更生債権として有するときには、法一六二条一項は適用されない。

また、本件は、法一六三条によって相殺が禁止される場合にも当たらない。

(二) 原告らの主張

被告が、本来、本件入会契約の締結に際して支払われた各入会保証金を、据置期間満了時までの間、無利息で、運用する利益を有しており、原告らが本件入会契約を解除したことによって、即時入会保証金を返還することを余儀なくされたことにより、その間の利息相当額の損害賠償債権を更生債権として行使し得ること自体は争わない。

しかし、被告がa社及びb社に対して反対債権を有するとしても、会社更生法一六二条一項により、相殺の意思表示は、更生債権の届出期間の満了時よりも前にしなければならない。

一方、a社及びb社の各会社更生手続においては、いずれも、右届出期間の満了日は、平成一〇年四月一七日であった。

したがって、被告の相殺の意思表示は、右届出期間の満了後にされたものであるから、不適法であり、効力を生じない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠等(争いのない事実、乙一、乙二、弁論の全趣旨)によれば、本件入会契約の締結手続及びその内容について、以下の事実が認められる。

(一) クラブに入会することを希望する個人又は法人は、クラブの会則及び被告が定める規則を承認した上、所定の入会申込書に必要事項を記入するなどしてこれを被告に提出し、被告の審査及び承認を得るとともに、被告が別に定める金額の入会金及び入会保証金を被告が指定する期限までに被告に納入するものとし、右入会金及び入会保証金の納入が完了した日をもって、クラブの会員資格を取得し、クラブに入会する。

被告は、本件入会契約に際し、右入会金を七〇〇万円と、右入会保証金を二三〇〇万円とそれぞれ定めた。

(二) 会員は、被告が別に定めるところにより、被告が所有し、又は被告の業務提携先が所有する所定の施設を利用する権利を有する。

(三) 会員は、施設を利用し、又は関係者に利用させるときには、クラブの会則等を遵守し、又は遵守させること、被告が別に定める金額の年会費を被告が別に定める方法により被告に支払うこと及び施設を利用する場合には被告が別に定める利用料金を支払うことを内容とする義務を負担する。

被告は、本件入会契約に際し、右年会費について、金額を一八万円と定めるとともに、これを毎年三月三一日までに翌年度分を一括して支払うものと定めた。

(四) 会員が、クラブの会則等に違反したとき、年会費その他の諸費用の支払を六か月以上滞納し、被告からの書面による請求があっても、右未納金を完納しないときなどには、被告は、会員に対し、除名、会員資格の停止、その他必要な処分をすることができ、会員は、除名された場合には、当然に会員資格を喪失する。

(五) 納入された入会保証金は、全額を被告に預託したものとするとともに、無利息とし、入会後所定の期間据え置いた上、据置期間満了後三か月以内に会員から請求があったときは、これを返還する。また、会員が会員資格を喪失した場合であっても、被告は、据置期間の満了後に返還する。もっとも、入会保証金の返還に際し、年会費又は利用料金等の未納金があるときは、当該未納金と返還する入会保証金とを対当額で相殺し、残額を返還する。

被告は、本件入会契約に際し、右据置期間を二〇年と定めた。

2  以上の事実を総合すれば、本件入会契約は、a社及びb社が、それぞれ、被告に対し、所定の方式によってクラブへの入会の申込みをした後、被告の承認を得るとともに、所定の入会金及び入会保証金を納付することをもって成立し、その効果として、a社及びb社において、被告に対し、それぞれ、所定の施設を所定の利用料を支払って所定の規則に従い利用する権利及び預託した入会保証金を所定の据置期間が満了した後に返還するよう請求する権利を取得するとともに、年会費を納入する義務を負担し、被告において、右のa社及びb社の右各権利に対応する各義務を負担し、右各義務に対応する各権利を取得するという契約上の地位を当事者の双方に取得させるものであって、a社及びb社の被告に対する右のような各所定の施設を利用する権利と、各年会費を納入する義務とが、それぞれ対価関係にある継続的な契約関係であるというべきである。

(一) この点、原告らは、本件入会契約は、被告に対し、それぞれa社及びb社に対して主催するイベントに参加させる義務を負わせるものであると主張するが、右のように解するに足りる証拠はない。

また、原告らは、本件入会契約が、a社及びb社に対し、それぞれ被告に対して入会保証金を据置期間中無利息で預託しておく義務を発生させるものであると主張する。なるほど、右の「据置期間中」という主張が若干不正確であることは措くとしても、本件入会契約が成立した時点において、a社又はb社がそれぞれ納入した入会保証金について、これを無利息として、据置期間の経過後に返還請求があるまでの間預託するとの合意がされていたことは、前記1(五)のとおりであるし、そのような合意とともに本件入会契約が成立した結果、被告は、a社及びb社がそれぞれ納入した入会保証金を、据置期間の満了後に返還請求があるまでの間、無利息で、運用することができる利益を取得したことは明らかである。しかし、a社及びb社が、それぞれ、被告に対して、入会保証金を納入することによって、本件入会契約が成立したものと認められることは前記のとおりであるから、本件入会契約の成立に至る過程を見たときに、a社及びb社がそれぞれ入会保証金を納入すること及び被告が各入会保証金について右のような利益を有することが、a社及びb社においてそれぞれ前記のような各所定の施設を利用する権利を取得することとの間で、有償の関係に立つという評価をする余地はあるとしても、本件入会契約が成立した効果として、a社及びb社においてそれぞれ原告らが主張する右のような義務を負担し、あるいは被告において右のような利益を取得したものであると解するに足りる証拠はなく、むしろ、入会保証金の預託に関するa社及びb社の各義務は、右のような合意を前提としてそれぞれ入会保証金を納入した時点、すなわち、本件入会契約のそれぞれが成立した時点において、既に履行が完了したものといわざるを得ない。したがって、原告らの右主張は採用することはできない。被告は、原告らの右主張を認めると答弁しているが、これは、当裁判所が右のような判断をすることを排斥する事情にはならない。

さらに、原告らは、本件入会契約は、a社及びb社に対し、それぞれ被告に対して利用料を納入する義務を負わせるものであると主張するが、前記1(三)の事実によれば、右義務が生じるのは、a社又はb社が被告との間で具体的に個々の利用契約を締結した後であると解するほかはなく、本件入会契約が成立した効果として、右義務が生じるものと解するに足りる証拠はない。したがって、原告らの右主張は採用することができない。

(二) 一方、被告は、a社及びb社の被告らに対する各年会費を納入する義務は、a社及びb社がクラブの会員資格を取得した結果として生じるものであって、本件入会契約の成立によって生じるものではないと主張するが、これは、a社及びb社がそれぞれクラブの会員資格を取得したということと、本件入会契約が成立したということが、あたかも別の法律行為であるかのように立論されている点において合理性がなく、むしろ、前記1(一)の事実によれば、a社及びb社がそれぞれ会員資格の取得したということと、本件入会契約のそれぞれが成立したということは、法律行為としては同一であると解すべきである。したがって、a社及びb社の右各義務は、本件入会契約が成立した効果として生じたものというべきであって、これに反する被告の右主張は採用することはできない。

また、被告は、本件入会契約によって、被告が、a社及びb社に対し、それぞれ施設を利用させる義務を負うとしても、この義務は、a社及びb社が、それぞれ、会員資格に基づいて、その権利を行使した結果として生じるものであって、入会契約の成立によって生じるものではないと主張する。しかし、本件入会契約に基づく施設の利用に伴う具体的な権利義務は、その時々におけるa社又はb社と被告との間の個々の利用契約によって生じるものであるということはできるとしても、ここでいう、a社及びb社の前記のような各所定の施設を利用する権利に対応する被告のa社及びb社に対する各所定の施設を利用させる義務とは、もとより、現実に個々の利用契約が成立した場合においてその内容に従って施設を利用させる義務に止まるものではなく(右のような場合において被告がこのような義務を負うことは、個々の利用契約が成立したことを前提とする以上当然のことであって、被告がクラブと入会契約を締結していない者との間で個々の利用契約を締結した場合であっても、同様の義務を負うものというほかはない。)、被告において、a社又はb社から所定の施設の利用の申込みがあった場合に、本件入会契約の約定の下で、所定の施設を所定の利用料を支払って所定の規則に従い利用することを内容とする契約を締結する義務のほか、被告において、a社及びb社が所定の利用料を支払うことによって所定の規則に従い利用することのできる施設を維持し、その利用の用に供することをも内容とする義務であるというべきであり、このような被告の各義務と、a社及びb社の各年会費を納入する義務とが、対価的関係に立つものと解すべきである。

3  さらに、本件入会契約に基づく、a社及びb社の被告に対する前記のような各所定の施設の利用権、すなわち被告のa社及びb社に対する右のような各所定の施設を利用させる義務と、a社及びb社の被告に対する各年会費を納入する義務、すなわち被告のa社及びb社に対する各年会費の納入を請求する権利とは、将来においても、本件入会契約が存続する間、存続することが予定されているというほかはなく、a社及びb社について、更生手続開始決定がされた時点において、その履行が完了していないものというべきである。

4  したがって、原告らは、本件入会契約を、会社更生法一〇三条一項に基づき、解除することができると解するのが相当である。

そうすると、被告は、前記一4のとおり、原告らが本件入会契約の解除をしたことに基づく、原状回復義務として、本件入会契約の成立に際してa社及びb社がそれぞれ被告に対して納入した各入会保証金相当額(入会保証金自体ではないことは、後述するとおりである。)の全額を返還すべき義務を負う。

なお、被告は、この点、前記1(五)のとおり、本件入会契約において入会保証金の返還時期の定めがあったことをもって、原告らは入会保証金の返還を求めることができないと主張するところ、右の主張が、原告らによる法一〇三条一項に基づく解除の効力が認められた場合をも前提とするものであるのかどうかということは、必ずしも明らかではないが、仮にそのような主張であるとしても、これを採用することはできない。

二  争点2について

1  前記一2(一)のとおり、被告は、本件入会契約が成立した結果、a社及びb社がそれぞれ納入した入会保証金を、据置期間の満了後に返還請求があるまでの間、無利息で、運用することができる利益を取得したものであるところ、原告らが、法一〇三条一項に基づき、本件入会契約を解除したことによって、据置期間の満了前に右入会保証金相当額の全額を返還すべきこととなったのであるから、入会保証金を、右解除の時以降右返還請求があるまでの間、無利息で、運用する利益を喪失し、もって、右逸失利益相当額の損害を被ったものというほかはない。したがって、被告は、法一〇四条一項によって、右損害の賠償につき、更生債権者として権利を行使することができる。

2  被告は、以上の解釈を前提に、被告が被った損害額は、本件入会契約の締結に際して納入された各入会保証金について、本件入会契約の解除の日である平成一〇年三月一三日から本件入会契約のそれぞれにおいて定められた各入会保証金の据置期間満了時までの間、商事法定利率年六分の割合で複利計算をすることによって算出することができる、中間利息相当額と同額であり、具体的には、前記第二の一2(一)の入会契約においては一四三〇万六三七八円、前記第二の一2(二)の入会契約においては一四九四万九八〇八円、前記第二の一3の入会契約においては一五〇四万二八六七円であると主張する。

また、被告が、原告らに対し、平成一〇年一二月二五日の本件口頭弁論期日において、本件入会契約のそれぞれについて、右各損害賠償請求権と各入会保証金の返還債務とを対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著である。

3  しかしながら、原告らは、本件において、期限の利益の喪失などを理由として本件入会契約に基づく入会保証金の返還自体を請求しているのではなく、本件入会契約の解除に基づく原状回復義務としての入会保証金相当額の金銭の返還を請求しているものと解されるところ、右金銭の返還請求権は、原告らが本件入会契約を解除したことによって生じたものといわざるを得ず、原告らによる右解除の時期が、a社及びb社においてそれぞれ更生手続決定を受けた時期よりも後であることは、前記第二の一1及び4のとおりであるから、結局、被告の入会保証金相当額の金銭の返還債務は、右1の損害賠償債権を有する者としての更生債権者である被告が、更生手続開始後にa社及びb社に対してそれぞれ負担したものであることになる。したがって、法一六三条一号により、被告が主張する相殺は、効力を有するものということはできない。

4  仮に、本件において、被告の入会保証金相当額の金銭の返還債務について、被告が更生手続開始前にa社及びb社に対してそれぞれ負担したものであると解する余地があるとしても、法一六二条一項によれば、右のような債務を受働債権としてする相殺は、更生債権の届出期間満了前までに限ってすることができるものというべきところ、証拠(甲九、甲一〇)によれば、更生会社としてのa社及びb社に対する更生債権の届出期間は、それぞれ平成一〇年四月一七日と定められたことが認められるから、前記1で認定した、被告の相殺の意思表示は、右届出期間の経過後にされたものといわざるを得ず、被告が主張する相殺は、効力を有するものということはできない。

この点、被告は、管財人が法一〇三条一項によって契約を解除した場合において、相手方が法一〇四条一項によって右解除による損害賠償請求権を更生債権として有するときには、法一六二条一項は適用されないと主張するが、独自の見解であるといわざるを得ず、採用することはできない。また、前記第二の一4で認定した、原告らの被告に対する本件入会契約の解除の意思表示がされた時期と、右で認定した更生債権の届出期間とを考慮すれば、本件において、仮に被告が更生債権の届出期間の通知を受けていなかったとしても、被告に対し、右届出期間内に相殺の意思表示をすることを期待することが不合理であるとは考えがたいし、一般論としても、法一〇四条一項の規定による更生債権者は、法一二五条又は法一二七条に基づいて、所定の期間内に更生債権の届出をすることによって、権利の行使をする途も認められているのであるから、被告が主張する相殺を有効であると解さなければ、法の趣旨が没却されるということもできない。

5  さらに、前記1のとおり、被告は、原告らが本件入会契約を解除したことによって被告が被った損害額が、本件入会契約の締結に際して納入された各入会保証金について、右解除後の据置期間の残余期間、商事法定利率年六分の割合で複利計算をすることによって算出した中間利息相当額であると主張するが、被告が被った損害額は、被告の実際の逸失利益の金額に従って算定すべきであり、商事法定利率によって算定することは相当ではないというべきであるところ、被告は、右逸失利益の金額について、何ら主張立証をしない。

6  したがって、いずれにせよ、争点2についての被告の主張は失当である。

三  よって、原告らの請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 長野勝也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例